*Love First
「この馬鹿キョン!」
部室に来るやいなや 涼宮さんの罵声が聞こえてきた。
「あんたまた数学で赤点とったらしいじゃない!なんであんな問題ができないわけ?!ほんと馬鹿キョンなんだからっ!!」
「別に俺が赤点とろうが非行に走ろうが何しようがそのせいでお前が被害を被る可能性は限りなくゼロだ。だからそれ以上人の心の傷に塩を塩を塗るようなことを言うな」
「赤点を取るなんてSOS団員としてあるまじき行為よ!」
そう言って彼の額を細い指で力強く指差した涼宮さんの顔には満面の笑みが浮かんでいた。
毎度毎度 彼には本当にお世話になっている。
北高に入学して以来 涼宮さんの精神は今までに例を見ないほど安定していた。
荒れ狂っていた中学生時代の頃とは比べものにならない。
まるで別の人格と入れ替わったような、僕にとっても 機関にとっても 驚くべき変化だった。
それをふまえて 僕が機関から与えられた課題、それは現状を維持することだ。
と言っても僕が直接涼宮さんに働き掛ける訳ではない。
涼宮さんの精神を安定させることができる人間かつ物体は現在 一名しか発見できていない。
そう、それが"彼'なのだ。
僕の役割は彼を涼宮さんの側から離れさせないこと。
まあ僕が役割を全うしているかと問われればその答えは否なのだが。
「あんたは一人でやったってどうせすぐ寝るか漫画読むかに逃げるでしょ!」
「俺だってやる時はやるさ。ただそのやる時ってのがまだ俺には訪れていないだけで――――」
「だーかーらっ!その時が『今』なのよ!」
「あの‥‥‥‥‥‥」
僕は思い切って2人の間に入った。
近くで見ている朝比奈さんは周りに『アワアワ』と効果音が描けそうなほど慌てふためいており、
これ以上見てられないとばかりに長門さんに制服の裾を引っ張られたゆえの行動だ。
「僕の家で数学の勉強を一緒にするというのはどうでしょうか」
僕はいいチャンスだと思った。
この案に涼宮さんさえ乗せれば、彼は僕の家に来てくれる。
「今日は金曜日ですし、午前授業だったので今から夜まで僕の家で勉強すれば結構な勉強量をこなせると思います。
彼さえよろしければ泊まっていただいても構いませんし」
「そうね‥‥‥古泉君は理数科だし。うん、そうね。それがいいわ!」
涼宮さんは更に目を燦然と輝かせ、腰に手を当て 指を突き上げて 言い放った。
「キョン!あんた今日は古泉君の家に行って、みっちり数学ってもんを教え込んでもらいなさい!これは団長命令よっ」
「おい‥‥そんな勝手に‥‥‥‥‥」
「わかったら返事!!」
こうなった涼宮さんを止められる人は、おそらくこの世には存在していないだろう。
「‥‥‥わかったよ。行けばいいんだろ、行 け ば !」
彼にはしぶしぶ了承することしかできなかったのだ。
そういうわけで彼は今僕の家にいる。
「あー疲れた‥‥‥、こんなに勉強したのはゲーム機を賭けたテストの前日以来だぜ」
「じゃあそろそろ休憩しましょうか」
「休憩って‥‥まだ勉強するのか」
「え?‥‥あぁ いつのまにかこんな時間‥‥‥ そうですね、今日はこの辺りでやめておきましょうか」
僕がそう言うと 彼はよしっと口パクで言い、んーっと伸びをした。
「なぁ、古泉‥‥‥‥‥」
「なんですか?」
「なんでわざわざ俺を家に呼んだんだよ」
「僕の専門分野は数学なので、お役に立てると思って」
「それだけか?」
「‥‥‥えぇ、それだけですよ」
何が言いたいのだろうか。
僕がそれを悟ろうと彼の顔を見ると、そこには目を伏せ寂しそうな表情が浮かんでいた。
いつもの彼らしくない、その表情に違和感を覚え 見つめていると その口が静かに開いた。
「‥‥‥‥‥‥‥お前の考えてることすら、俺はわからないんだな」
「え――――――――――?」
僕が考えていたことを そのまま言葉にした彼に僕は驚き 何も言えなかった。
「長門も朝比奈さんも、最初に比べればマシになったが 今でも俺とは距離を置いている。
同姓のお前が俺にとっては一番普通に思える存在なのに。」
普通‥‥‥‥・・・・僕が‥‥‥‥‥‥‥‥?
僕はいつもの微笑を浮かべて、彼を見つめた。
「何言ってるんですか、僕は超能力が使え――――――」
「そういう問題じゃないんだよ!」
驚いた。
彼が声を荒げるなんて、あまりに非日常的な光景の連続に、また僕は何も言えなくなってしまった。
「‥‥‥では、どういう問題なのですか?」
数秒おいて、落ち着いたふりをした僕は彼に静かに尋ねた。
「‥‥わかんねぇよ、俺にだって。でもお前のこともっと知りたいんだよ、俺は」
「どうして」
「‥‥‥‥っ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
なんだろう、この気持ちは。
顔を伏せて 唇を噛み締める彼を見ていると また妙に胸が痛くなる。
喉の下あたりがキューっと締め付けられ、その刺激は何故か僕の涙腺を刺激した。
「貴方は、本当に 不思議な方です」
「その台詞、お前だけには言われたくなかったな」
「好きですよ、僕はそんな貴方が好きです」
「?!‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
そのまま僕は背後にあったベットに思いきり彼を突き倒し、覆いかぶさった。
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